「このまま一生ひとりなのでは」
そんな考えがたびたび脳裏をかすめた一年だった。独身・一人暮らしのわたしには、リモート生活は静かすぎる。
新規感染者数が日々報道され、イベントが次々と中止になり、医療従事者や飲食店の悲痛な声が飛び交う世の中においては、「恋愛をしたい」などという欲求はどこか軽率だった。デートをしようにも、ついには外で酒も飲めなくなった。
季節はめぐり誕生日がやってきて、わたしを表す数字がまた一つ上がったが、中身は宙ぶらりんのまま、身体という容れ物だけが老いた気分だ。生理が来れば「私の卵子がまた一つ旅立っていった」と涙ながらに見送った。
だが、踏み出せたこともあった。数年前に「もう二度とやるまい」と決めていたマッチングアプリ。あのときは、人間を値踏みしている感覚に居心地の悪さを覚え、やめたのだった。しかし「今はこれしかないから」と、コロナを口実にもう一度ダウンロードすることにした。同じように、自粛生活で〝仕方なく〟マッチングアプリを始めた人も少なくないのでは。
思えば、いつのまにマッチングアプリがこれほど社会に溶け込んだのだろう。昔は「出会い系」なんて呼ばれ犯罪の温床とまで言われていたのに、今ではZ世代から「合コンって何ですか?」などと言われる始末だ。もはや恋愛市場のインフラと化している。
実はこのほど、リブセンスでも「knew(ニュー)」というマッチングサービスをローンチした。スワイプもイイネもない、相性の合いそうな人を運営から紹介される提案型マッチングサービス。内面や価値観によりフォーカスするため、初めの段階では顔写真が分からず、ビデオチャットで初めて顔を合わせるブラインドマッチ方式となっている(詳細はプレスリリースを参照いただきたい)。
恋愛やパートナーシップの話は軽視されがちだ。しかし「誰と生きていくか」ほど大切なことが他にあるだろうか。それが結婚であれ、別の形であれ、愛のある人生は無条件に尊いと思う。そんな憧憬を胸に、今回は堂々とパートナー探しの話をしていきたい。
マッチングアプリ、みんなのハウツー
オンラインで出会うことの敷居は下がった。ただ、みんなはマッチングアプリとどのように付き合っているのだろう。マッチング事情について社内で募ったところ、一七名から回答を得ることができた。
まず驚いたのは、結果を残している人の多さ。「マッチングアプリがきっかけでパートナーができたことはありますか?」という質問に対し、一七名中、なんと一三名が「はい」と答えてきた。こういうアンケートに協力してくれるくらいだから、単にやさしいか、アプリを使いこなしている人なのだろう。それにしても、多い。おそらくこれは一般的な統計とは異なるだろうから、成就したことがない人も気を落とさないでほしい。
前半では、聞きとり調査から得られた「アプリを上手に使うコツ」を、後半ではマッチングアプリ疲れを助長する「お焚き上げエピソード」をご紹介したい。
まずは「マッチングアプリを上手に使うコツ・自分なりのハック」について。プロフィールや写真についてはもちろん、イイネやアプリを使うタイミングまで、幅広い回答が出てきた。早速みていこう。
プロフィール篇
ツッコマレビリティ。つまり、ツッコまれ能力。採用の履歴書や職務経歴書と同じで「ついツッコミを入れたくなる」「声をかけたくなる」ポイントを撒き散らして印象づけて差別化します。そして突っ込まれたら話せるエピソードを用意しておきます。例えば「カフェに行くのが好き」じゃなく「土日の午後にフルーツもりもりのパンケーキとソイラテの組み合わせを楽しむ妄想をするのが趣味です」とか。(30代・女性)
早めにお茶してスピード検証。初回は昼間にお茶だけ2時間、と決めて良さそうな方はサクッと会って見極めます。ずるずるメッセージするより会うほうが情報量が段違いに多いので、早めにお茶に誘いたくなるようメッセージで誘導。(30代・女性)
いわゆる『ヤリモク』が多いと言われているアプリでも、そういう目的の人はプロフィールに書いていることも多く、アプリの使用目的を聞き出しやすいです。「ヤリモクですか?」と聞いてしまうことで、時間の無駄遣いをせずに済みました。真剣な人を見つけるために、逆にヤリモクの多いアプリに登録するのは裏をかいたハックだなと(笑)。(20代・女性)
会話を広げるためのヒントをちりばめておくのは大切ですよね。さもないと、受信ボックスが「〇〇と申します。よろしくお願いします」で止まったDMの死骸で埋まる。
イイネ篇
基本的にこちらからは選別せず、ひたすらイイネを送りまくる。イイネが返ってきた人の中から、ある程度話が続く人をデートに誘う。業者に出会わないために、会うまではラインを交換しない。(20代・男性)
とにかく見極めを厳しくせず積極的にイイネを押してマッチング率をあげる。写真で判断しすぎない。相性はメッセージや、実際会わないと分からない。(30代・男性)
数撃ちゃ当たる戦法をとっていたのはほとんど男性でした。男性会員のほうが多いから、活動量が少ないと埋もれてしまうのでしょうか。
写真篇
「あえて写真を載せず、やりとりが始まってしばらくしてから写真を見せる」という方法で成功しました。最初に写真を見せてしまうと、写真写りの悪い人の場合は容姿でハネられてしまうので。「上手に使うコツ」というほどではありませんが、私はこの方法で結婚しました。(30代・女性)
写真は加工しすぎず、プロフは嘘をつかず、対面したときとのギャップが無いようにしていた。逆に宣材写真ですか?と思うほどのイケメン、顔を(一部でも)隠す人、写真の画質が死ぬほど悪い人、プロフィールに何の情報もない人はスルーするに限る。(30代・女性)
そういえば、自分の写真を持っていない人って意外と多いですよね。トイレの鏡越しに自撮りした写真の男性ばかり見かけます。余計なお世話ですが、自然光をおすすめしたい。
タイミング篇
登録して一週間ほどはプロフィールの閲覧数が多いため、プロフィールは登録直後からきちんと入力する。そこから一ヶ月はアクティブに利用、それ以降は(連絡中の相手がいなければ)退会して、再度登録しなおす。(20代・男性)
冬季はクリスマスやお正月等のイベントが多くマッチしやすいため、その時期に課金して集中的に婚活を行う。(30代・男性)
「新着ボーナス」いいですよね。でもわたしが運営だったら、何度もそれを行使しようとする人はいずれ審査で落とすかもしれません。
サンプルが少ないため一般化はできないけれど、それにしても〝ハック〟を項目別に並べたときに男女が注力しているポイントがキレイに分かれたことは興味深かった。例外も多分にあるだろうが、プロフィールを磨く女性陣(=待つ側)と、イイネを散布する男性陣(=仕掛ける側)という構造ができているのだろうか。
効率を求め陥るマッチングアプリ疲れ
しかし、みんなの取り組みを聞いてみて、なんて大変なんだろうと改めて尻込みしてしまった。他者とわかり合おうとすること自体が骨の折れる営みだという前提はありつつ、なんというか、マインドセットが仕事に近いのだ。マッチングアプリを制するうちに、マーケティング視点が鍛えられそうだ。
実際に、先月「knew」が発表した調査によると、マッチングアプリ利用者の約八割が「マッチングアプリ疲れ」を経験している。理由の第一位は「好みの相手が見つからない・マッチングしない」だった。社内のアンケート回答者も、一七名全員が疲れや面倒くささを感じたことがあるという。
マッチングしたとしても、その先にはメッセージのやりとりがあり、「お仕事は何をされているんですか」「お休みの日は何をされているんですか」といった出口の見えない会話を何十回も繰り返さなければならない。マメでないわたしは、これが続かない。そしてDMが腐敗していくのだ。
それだけではない。気持ちの置きどころが難しい。相手との関係の発展を望んでも、こちらが複数とやりとりしているのと同様に、先方も複数と同時進行している。前向きに考えていたのに、突然DMの返信が来なくなることもザラにある。一人ひとりに思いを乗せていては、身が持たない。恋愛のためのアプリなのに、心を無にせねばならないなんて。
疲れるだけならまだしも、不誠実な出会いに遭遇することも。寄せられた迷惑エピソードを、この場を借りてお焚き上げする。
二回目の食事の後、タクシー移動していたと思ったらいつの間にかホテルについていた(何もさせなかった)。また、付き合ってほしいと告白しておきながら、既婚・子持ちだった。(30代・女性)
マルチ商法の勧誘だったので、返り討ちにしました。好奇心で事務所についていったら、自社製品がいかに素晴らしいかを示す実験を見せられたんです。汗に見立てた塩を鏡に置いてボディソープを垂らしてこすると、自社製品だとさらっと流せるのに、他社製品はカスが出て汚れが残るというもの。ただ、そのカスが出るのは高校化学で習う「塩析」という反応で、塩の濃度が高いと起こります。自社製品のほうは、予め水で薄めてあったんですね。ということで「これは完全な嘘ですね。マルチ商法自体は違法ではないですが、あなたたちのやり方は偽装表示や薬事法違反など、いろいろな法律に触れている可能性が高いです」と騒いで帰ってきました。(20代・男性)
ネットワークビジネスの勧誘を受けました。ただすごく気が合う人で、それ以降は勧誘もされず、毎週カフェで三時間くらい語る友人になりました。(20代・女性)
後ろの二つは「つよすぎ」という感想しか出てこないが、このような災難に見舞われたら、間髪入れず運営に通報しよう。
マッチングアプリに求めたいものは?
マッチングアプリは、恋愛市場を一変した。合コンが主流だった頃を思えば、誰がくるかわからないバクチに二時間を費やす必要はなくなったし、もう友達からの「飲み会開いてよ」という連絡に辟易せずに済む。
しかし、その便利さと引き換えにたびたび居心地の悪い思いもしている。過剰な写真加工、人気会員のランキング、条件による足切り、無限スワイプ、性を引き立てた広告など。こうしたノイズに目をつぶりつつ、やむなく使っているのはわたしだけではないだろう。
一七名にも「どんなマッチングアプリなら使ってみたいか」を尋ねたところ、次のような回答があった。
- 噓つきは即刻締め出されるアプリ。
- マッチングした後でも、「なんか違うな」と思ったら、やんわりお断りできる機能がほしい。ブロックだとお互い傷つくし、なぜ連絡がつかなくなったのか気になるので。
- クリスチャンなので、宗教がわかると嬉しい。
- 性別を問わないマッチング。LGBTQ歓迎。
- 「人を査定している感」を感じずにできると、ストレスなく続けられそう。
- まともなジェンダー観の人と出会えるアプリ。
- 一生一緒にいるのは、恋人や家族以外でもいいと思うので、結婚に限らずいろいろな目的でつながれるアプリがあるといい。
ここからもわかるように、大切にしたい価値観は人それぞれ異なる。
離婚歴があり、一人で子どもを育てている女性社員も、既存のマッチングアプリでは難しさを感じているという。自分との相性だけでなく、子どもとの相性も考慮に入れなければならない。さらに今後出産することは考えていないため、子を望む人では対象外になってしまう。「好き」という感情は大切にしたいが、条件先行でなければ出会えない葛藤があると話してくれた。
愛は、比較の先にあるのか
マッチングアプリによって、手軽にたくさんの人とつながれるようにはなった。けれど、その分幸せを得やすくなったかと問われると、すぐには答えられない。選択肢の多さが、必ずしも幸せに結びつくとは限らないからだ。
マッチングアプリの世界に手放しに生息することの怖さは、査定癖がつくことだと思う。相手や自分をわかりやすい基準で査定する能力ばかりが長けていき、自分独自の美徳が、比較のなかの優劣に乗っ取られそうになる。
どんなふうに笑うか、愛読書は何か、他者や社会にどんな眼差しを向けるか。たとえば、わたしにとってはこれらのほうが重要なのに、顔、年齢、職業など、比較に次ぐ比較をしていたら、容易に軸を見失ってしまうだろう。
愛のある人生は尊い。ただそれは、比較の先にあるものなのだろうか。「自分にぴったりの人」というのは、査定結果が近い人という意味ではないはずだ。さらに言えば、自分にぴったりの人などいない。人はみんな違うからだ。ならばわたしは、一定レベルで気が合う人となら誰とでもうまくやっていけるくらい、自分が成熟する道を目指したい。
ここは一見、可能性に満ちた場のように見える。しかし、わたしはかえって自らの審美眼を問われている気がしてならない。
編集注:本稿で取り上げたマッチングサービス「knew(ニュー)」は、2024年10月にサービスを終了いたしました。