2023.11.01

働く親の罪悪感はどこからくるのか。子育て未経験の私から見えたこと

「子どもが体調不良で在宅保育をしているけど、正直仕事にならない。みんなはどうやって両立しているの?」

 SNSを見ていると、仕事と子育てを両立する大変さについて吐露する人がとても多い。

 私は独身で子どもはいない。けれど、このような投稿を見ると、投稿者と世代が近いせいか気になって読んでしまう。気になって読むから、タイムラインに多く集まるのかもしれない。そうだとしても、毎日毎日新しい投稿が流れてくるということは、それだけ仕事と子育ての両立に悩む人がいるということだろう。

 一方で、独身社員の吐露も見かける。

「時短や早退、急な休みも、『子どもがいるから』が切り札になる。仕方ないとも思うけれど、独身ばかりにしわ寄せがくるのは納得がいかない」

 その気持ちもわかる。

「子どもが熱を出したのでこれから保育園にお迎えに行きます(汗)」という社員に対して、「あら大変! 何かやっておくことはありますか? お熱、早く下がるといいですね」と答える周りの社員。

 他に言いようがないような、見慣れたやりとりだ。

 もし不満を相手に伝えたら関係性が悪くなるだけでなく、周囲から「理解がないやつ、器の小さいやつ」と思われたり、伝え方によってはマタハラ・パタハラになりかねない。そう考えると、職場で不満を口にするのはデメリットのほうが大きい。だから本音はSNSに放流する、そういうことなのだと思う。

 ただ私自身はこれまでに、子育て社員のしわ寄せに対して不満を抱いたことはほとんど無い。どちらかというと、子育て社員の吐露の方に同情しがちだ。

 私が心の広い人間のように聞こえるが、そうではない。こういう感覚でいられるほど、周囲にしわ寄せがいかないように頑張っている子育て社員が多いからだ。「昨日は子どもの寝かしつけが上手くいったから、夜にやりかけの仕事が進められた」なんて話は珍しくない。周囲のみんなは、子育てで削られる仕事時間の中で、どうにかやりくりしている人たちばかりだ。

 仕事と子育ての両立に苦労している人が多いことも事実。子育て社員のしわ寄せに困っている人がいることも事実。

 熱を出す子どもが悪いのか。子どもの体調不良を理由に仕事を休む社員が悪いのか。休んだ人の仕事のしわ寄せに不満をもつ社員が悪いのか。

 みんな薄々分かっているだろうけれど、当然、誰も悪くない。仕方のないことだからこそ悩ましい。

 リブセンスでは子育て中の社員も多い。みんなはどう思っているのだろう。当事者の本音と葛藤を聞いてみた。

罪悪感・板挟み・プレッシャー

 今回は、子育て中の社員3人から話を聞いてみた。まずは女性のAさんだ。

「やりたくてやっている仕事でも、その間、自分が子どもにかまってあげられないことに対する罪悪感があるんですよね。それは、ベビーシッターを利用しても埋められない罪悪感です」

 Aさんは、子どもに向き合えない時間に罪悪感を感じるという。でも、子どもを放っているわけではない。ケアできない時間はシッターに依頼して、自分の代わりに子どもを見てもらっている。罪悪感は必ずしも、自分が子どもをケアできていないことによって生じるわけではない。

「子どもが発熱して保育園からお迎え要請があったとき、切り上げなければならない仕事を気にする自分がいて、それに気づいたときに子どもに対して申し訳なさを感じます」

 子どもに思うようにかまってあげられないことに対して、親の心の中では、こんなにも罪悪感が生じていることに衝撃を受けた。独身の私にはそこまで想像ができなかった。

 二人目は時短勤務する男性のBさん。夫婦両方が家事・育児の主担当という形をとり、Bさんは1年間の育休ののち時短勤務で働いている。

「時短勤務について、部署のメンバーにはかなり理解と協力をしてもらっています。でも、最初からネガティブな反応が無かったわけではありません。社内に、男性×時短勤務×営業職という前例が無かっただけでなく、『営業で時短はまず無理でしょう』という固定観念もあったと思います」

 Bさんが配属されたチームは、夕方、保育園のお迎えの時間に一番忙しくお客様と連絡を取り合うことが多く、時短勤務との相性は良くなかった。そこで上司は新たなミッションと仕事を用意し、日中の商談がしやすい環境を作ってくれた。結果、Bさんは今なんとか家庭と仕事を両立させている。

「ただそれでも、両立が難しいときがあるのが子育てだと感じます。お客様とのオンライン商談が午後に数件入っている日があったのですが、朝になって子どもが発熱してしまい、午前中は私が、午後は妻が休みを取って切り抜けました。両方が打ち合わせだらけだったら対応できていたかわかりません。こういうとき、板挟みになってるなと感じますね」

 仕事の調整をして、働きやすい環境になったとしても、万事が解決するわけではない。両立の難しさはつきまとう。

 最後は、3年半の育休から復帰し、現在は時短勤務で働いている女性のCさん。制度や職場環境など、総じて育休復帰しやすい会社だと感じているそうだが、葛藤もあると教えてくれた。

「私は時短勤務なのですが、周囲の期待にどこまで応えるべきなのか悩みます。『もっと働いてよ』とか『時短でも給料はもらってるんだから、退勤後もレスポンスがあるはずよね?』と相手に思われているのではないかと考えたら苦しくなり、無理やり働こうとした時期がありました」

 ギクッとした。私も時短勤務の人とチャットをするとき、「退勤した後だけど、今日中に反応してもらえたらうれしいな」と思うことがあるからだ。

「もっとできるよね、という期待に応えられず失望されるのが怖いんです。そのときは家族との時間より仕事を優先することも多く、罪悪感にも苦しめられて、負のループでした」

 仕事も一所懸命やりたい、育児も手を抜きたくない。逃げ場のない板挟みの状況で、今日もみんなは頑張っている。

理想を捨てれば罪悪感も消えるけれど

 母親が子どもや家族に抱く罪悪感を「マミーギルト」と呼ぶことはなんとなく知っていたが、腑に落ちた気がした。子どもと仕事、どちらも大事だからこそ生まれる葛藤は、そう簡単に和らいだり無くなったりするものではなさそうだ。

 状況は男性も変わらない。「パピーギルト」という概念は今のところ一般的ではないが、男性の家庭進出が進んだ近い将来、普及するかもしれない。もしくは、ひとまとめに「ペアレントギルト」と呼ばれるのかもしれない。

 こうした罪悪感の根っこには、「親としてこうありたい」という理想と現実のギャップから生じる自責の念であったり、「親とはこうあるべき」という世間のバイアスを親自身が内面化している影響があるのではないか。

 しかし、理想を捨てろということはできない。

 性別役割分担がはっきりしていた時代、女性は家事と子育て、男性は仕事を担当していた。そのあたりまえから外れるような希望や意志は、大抵認められなかった。

 女性の私からすると、女性に生まれたというだけで社会で働くことが許されなかった時代や、結婚したら寿退社という名の追い出しをくらうことが常識だった40年前に比べ、今はだいぶんましな状況だと感じる。
 自分で仕事や会社を選び、結婚してもしなくても仕事を続けることができる。じわじわと前進している今、先人が切り拓いてきた道を引き返したいとは思わない。

 男性も同様だろう。仕事で稼ぎ、経済的に家族を支えるのが男の生き方と決めつけられ、家庭から遠ざけられてきた。「24時間戦えますか。」というCMのキャッチコピーが流行ったり、職場では「家庭の事情を持ち込むな」と言われたりした。そんな社会で、男性は家庭と仕事の両立という理想を追うことすら許されなかった。

 今は理想を追えるようになったのだ。だから板挟みの罪悪感も生まれている。

 時短で働く男性社員のBさんはこんなことも言っていた。

「男性の育休取得があたりまえの感覚になっているリブセンスなら、近い将来、男性の時短勤務についても、働き方の1つの選択肢という感覚になっていくんだろうなと思っています」

 今後、時短勤務で働く男性が増えていけば、これまでよりはるかに多くの人が育児をしながら働くようになるだろう。

 罪悪感を完全になくすことはできないかもしれない。それでも、お互いに共有することはできる。それは今よりいくぶん生きやすい社会だと思う。

想像力の壁を超えて伝えたいこと

 昔は性別によって「仕事に一〇〇か育児に一〇〇」だった。今、仕事と子育てを両方頑張る人は「仕事に五〇/育児に五〇」のはずが、実際は「仕事に一〇〇/育児に一〇〇」になっているように思う。

 仕事もしたい、子育てもしたい。でも仕事は楽じゃないし、子育ては仕事以上に予測不能なことが多い。仕事と子育ての両立とか、ワーク・ライフ・バランスという言葉は聞きなれたものだが、言うは易く行うは難しだ。

 今回、記事を書きながら「ワーク・ファミリー・コンフリクト」という言葉を知った。意味は、仕事と家庭生活で求められる役割が両立せず、葛藤を感じる状態のこと。「私の悩みはまさにそれだ!」と思う人はきっと沢山いるに違いない。

 みなさんの話を聞いて改めて、子育てをしながら仕事をすることは、そう簡単なことではないと再認識した。職場に申し訳なさを感じたり、子どもに申し訳なさを感じたり、葛藤する瞬間は沢山ある。でも、葛藤があるということは、それだけ一生懸命、仕事にも子育てにも取り組んでいる証拠なのだと思う。

 最後に、ある社員から聞いたエピソードを紹介したい。

「独身だったころ、同じチームに小さいお子さんがいる社員がいて、しょっちゅうお子さんの体調不良で休まれていました。だんだんと不満が募り、あるとき思わず『お子さんがいると休みが取りやすくていいですね!』と言ってしまったんです。それから数年後、自分も子育てを経験したことで、当時どれだけひどいことを言ってしまったのかに気が付き、その方に連絡を取って謝罪したことがあります」

 働く親の本当の大変さは働く親になってみないとわからない。実体験の有無による解像度の違い、想像力の限界はどうしてもある。

 なので、子育て未経験者の私が言ったところで説得力に欠ける気はするけれど、もし子育て社員の方が自分を責めそうになったときは、同時に「でもわたしは頑張っている!」と思ってほしい。

 思ったところで、目の前の仕事が魔法のように片付いたり、お子さんがピタッと泣き止んでくれたりするわけではないけれど、せめて罪悪感で心を傷つけすぎないで欲しい。子育てしながら働く人は、みんな本当に頑張っていると思うから。

執筆 小山舞子

もしも私がその人だったら。相手の心に寄り添う気持ちを大事にしたいと願いながら記事執筆に向き合う。2019年より広報を担当。プライベートでは障がい者福祉支援団体でボランティア活動中。子供の頃から憧れの人はナウシカ。