2021.11.19

男は稼ぎ頭であたりまえ? 男性の育休取得を阻むバイアスの正体

 「65%」
 これは、リブセンスにおける二〇二〇年度の男性社員の育休取得率だ。

 厚生労働省が発表した「令和二年度雇用均等基本調査」(以下、厚生労働省の調査)によると、同年度の男性の育休取得率は「12・65%」だ。

 二〇一九年度から5・17ポイントと過去最大の伸びを記録し、ようやく10%を超えたことがニュースなどで大きく報じられている様子を見ると、リブセンスはなかなか健闘していると感じる(ちなみに、厚生労働省の調査に比べるとリブセンスの育休取得対象者は少ないので、その分一人が与える取得率への影響が大きくなることは心に留めておきたい)。

 リブセンスでは以前より、女性はもちろん、男性が育休を取得することがさほど珍しいことではない風土がある。男性社員の育休取得率でいうと、二〇一九年度は58%、二〇二〇年度は65%で推移しており、この実績をもとに「リブセンスは男性も育休が取りやすく、家庭と仕事を両立しやすい環境です」と社外にアピールすることもある。

 確かに育休取得率は高い。しかし、この数字は育休を取った・取らなかったの結果だ。同じ会社でも、働く環境やメンバーは様々。育休を円滑に取れた人もいれば、やっとの思いで取った人もいるだろう。取得率だけを見て「男性が育休を取りやすい」と手放しで満足してしまって良いのだろうか、という疑問が浮かぶ。

 また、育休の取りやすさを判断するには、もっと別視点の情報も必要ではないだろうか。例えば、育休取得期間や社内での相談のしやすさなど。

 男性だろうが女性だろうが、「子を持つ親」であることに変わりはないはず。それなのに、どうして女性は育休が取りやすく、男性は取りづらいのか。今回は、スポットが当たりづらい男性の育休取得のしづらさとその理由について考えてみたい。

男性の育休取得、社内外の現状

 育休取得期間で言うと、リブセンスの昨年度の男性育休取得者のうち、長い人だと約七カ月、短い人で約二週間ほど取得している。一方、厚生労働省の調査によると、約三割が五日未満とかなり短い。「いや~連休あっという間に終わりましたね~」と毎年お約束のように言い合うゴールデンウィークや年末年始と変わらない。取得期間を「二週間未満」まで拡大すると、七割超が当てはまるようだ(二〇一八年度調査より)。

 全体的な話が多くなっているが、もちろん、各家庭で事情は異なるので、その育休期間が本人と家族が希望した結果であれば問題ないだろう。しかし、本人が「本当はもっと長期で育休を取りたい」、パートナーも「長期で取ってほしい」と思っているにもかかわらず、仕事の都合を優先して短期間の取得に留めたという男性側のエピソードは割と見聞きする。女性に「職場復帰したいのに保育園が決まらず、育休を延長せざるをえなくて困っている」という声が多いこととは対照的だ。

 今の日本では、男性が育休取得をしづらく、その状況もなかなか改善されない。「人が足りないから長期の育休が取れない」「社内に前例が無いからと会社に拒まれた」などの理由で取得を諦める男性も少なくない。そのような状況に立たされる女性がいないわけではないが、女性の育休取得率が八割を超えている事実に鑑みると、その割合は男性のほうがずっと多いだろう。

充実度世界一位の育休制度と、大黒柱バイアス 

 長年、男性が育休を取得しづらい状況が続く日本だが、実は育休制度の充実ぶりが世界一として認められていることをご存知だろうか。私はこのテーマに取り組むまで全く知らなかった。

 このランキングは、ユニセフが、経済協力開発機構(OECD)およびEU加盟国の41カ国を対象に、各国の育児休業政策や保育政策を評価した結果だ。

 日本の育休制度が一位に選ばれた理由は「父親に認められている育児休業期間が対象国の中で最も長いこと」。しかも、父親と母親に認められた育休期間がほぼ同じ長さである唯一の国なのだという。

 諸外国と比較して日本は男性の育児参加が立ち遅れているとよく言われるので、てっきり制度自体もいまいちな内容なのだと思い込んでいた。まさか世界一とは思ってもみなかったし、そんな制度を活用できずにいる状況にもったいないと感じる。

 どうして宝の持ち腐れ状態になってしまっているのだろうか。もしかしたらその要因の一つは、私たちが多かれ少なかれ持っている「大黒柱バイアス」にあるのかもしれない。

 「大黒柱バイアス」とは「男性は一家の大黒柱として稼ぎ、家族を支えなければならないという固定観念」で、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事の西村創一朗さんが提唱している。「男性はフルタイムで定年まで仕事をするべき」「男性は共働きでも家庭より仕事を優先するべき」などの考え方がその一例だ。「女性は家事・育児・介護を担うべき」という「家庭役割バイアス」と対になるもので、性別によって役割を区別する偏見と言える。 

 大黒柱バイアスは、男性が一家の大黒柱として外で働き、女性が家を守るという専業主婦世帯が主流だった時代には問題視されていなかったかもしれない。しかし、共働き世帯が過半数を占める現代においては、過去の通例と実態との間に乖離が生じてしまい、それが働きづらさや生きづらさの要因となってしまう。

 専業主婦世帯で育った人は働く世代にも多く存在するし、その世代の男性が、育ってきた環境と同じようにパートナーに家庭のことを任せている場合もあるだろう。つまり、長い時間をかけて慣れ親しんだ「男性は会社で働き、女性は家で働く」という生き方・価値観はその人の常識を形成しており、そう簡単に上書きできるものではないのではないか。

 自分にも思い当たる節がある。結婚するなら自分より収入のあるパートナーのほうが安心だな、とつい考えてしまう。少し立ち止まって考えれば「これは時代遅れの偏見だよね」と分かるはずのことが、ふとした時に偏見だと自覚できない。これがバイアスの厄介なところだ。

男性を苦しめるバイアスの、外圧と内圧

 大黒柱バイアスは、他の誰か(会社の上司や同僚、妻、家族、友人など)が男性に対して抱くだけではなく、男性自身が内面化していることも少なくない。会社や上司が、育児に携わりたい男性社員に対して嫌がらせ(パタニティ・ハラスメント)を行うのも、男性本人が「育休を取ると出世コースから外されかねない」と考えてしまうのも、男たるもの大黒柱であらねばならないというバイアスが作用していると考えられる。

 リブセンスの男性社員に、育休取得についてヒアリングをしたとき、次のような話を聞いた。

 Aさん「育休を取る際、上長への相談がしづらかったです。業務のメイン担当が自分だったので、一時的であっても抜けることで迷惑をかけてしまう恐れがありました。また、上長が成果創出のためにコミットメントを強く求めるタイプだったのですが、普段から休みを取ることに比較的否定的でした。
 そのため、育休を取ると言ったらどんなふうに思われるだろうと不安でした。でも相談した結果『応援します』と言っていただき、とても感謝しています」

 Bさん「私にとって家族は何よりも一番大事なものです。今妻が妊娠中で、子どもが生まれたら長期で育休を取ろうと考えています。色んな先輩が取っている様子を見て、結婚当初から取ろうと決めていました。
 でも実際に取るとなると、長い育休を取ることで部署のメンバーに迷惑をかけてしまうのではないかということが一番心配です。それに、長期で育休を取得した場合、自分のキャリアにマイナスの影響があるのではということも不安です。本当は一年くらい取得したいですが、仕事の状況次第で期間を短くするかもしれません」

 Aさんの上司が重視するように、仕事で成果を出すことはもちろん社員として大事なことだ。また、Aさんの話を聞く限り、上司が男性社員の育休取得に理解がなかったわけではなさそうだ。しかし、もともと大黒柱バイアスを多かれ少なかれ内面化している男性社員が、日々上司から「仕事が最優先事項」「休みを取るのは良くないこと」というメッセージを受け取ることで、大黒柱バイアス強化の影響を受けてしまうおそれがある。自覚しないうちに「男は仕事ができてなんぼ」「そのために家庭より仕事優先」という思考回路になりかねない。

 一方、Bさんのように育休取得を検討しやすい環境でも、会社に対して気兼ねすることはあるようだ。また、自身のキャリアに対して慎重になることは女性にもあることだと思いつつ、それでも自分の希望より仕事の状況を優先する可能性に、Bさんの大黒柱バイアスの片鱗のようなものも感じた。

 育休が取りやすいとアピールするリブセンスにおいても、実はこのように様々な事情で育休の取りづらさを感じる人はいる。育休を取ったという結果は育休取得率で見ることができるが、取得前に感じた取りづらさや、取得期間やタイミングにどれだけ仕事の都合を考慮しているかはほとんど可視化されない。 

 しかし、言いづらく見えづらいその部分を明らかにすることが、育休の取りづらさ解消のヒントになるのではないかと思う。

喫緊で求められる男性の家庭進出は、大黒柱バイアスを変える?

 「男は仕事ができなくてはならない」「父親は家族で一番の稼ぎ頭であるべし」などの大黒柱バイアスは、男性の育休取得率向上のネックになっているだけでなく、男性の生き方そのものの選択肢を狭めることにも繋がっている。また、それは家族にも影響が及ぶ問題だ。

 日本では、根強い家父長制の影響や大黒柱バイアスのせいで、男性が弱音を吐くことや生きづらさを語ることが良しとされない傾向があるが、ここ数年の「国際男性デー(毎年十一月十九日)」をきっかけに、SNSなどでも男性自らが男性の生きづらさについて語ることが増えている。

 男性の生きづらさに対する理解が地道ながら多くの人に広まり、時代にそぐわない大黒柱バイアスの存在感が薄れ、世の中が新しい価値観にアップデートしていくことを期待しているし、自分もそうありたい。

 しかし一方で、そんな悠長なことを言っていられない現実もある。大黒柱バイアスの解消がままならないなか「男性の家庭進出」を求める声が強まっている。

 それは、今年六月に改正され、来年から順次施行予定の「育児・介護休業法」だ。家事・育児の負担があまりにも女性に偏っていることが女性の社会進出を阻んでいるとして、現状を打破しようと、充実度世界一の育休制度がさらに男性に使いやすくパワーアップされた。

 例えば、育休とは別に「男性版産休」とも呼ばれる「出生時育児休業」が取得できるようになったり、対象となる社員一人ひとりに育休制度の周知および取得意向の確認をすることが企業に義務化されたり、従業員千人超の企業は育休取得状況を年一回公表することが義務付けられたりする。

 これでもかと制度を充実させ、強制力を持ってでも育休取得率をあげよう、男性の家庭進出を進めようとする政府の意気込みを感じる。

 ただ、時代の要請だと頭では分かっていても、もし私が家計をメインで支えている男性社員だったら、「仕事を頑張って、給料を稼いで家族を支えるだけでも大変なのに、育休を取って収入を下げてまで育児や家事も頑張れって言われるのはきついな……」と感じてしまうかもしれない。

 改正法施行でおそらく育休取得率の見た目は改善されるだろう。過重な家事育児の負担が軽減されて助かる女性もいるだろう。育休が取りやすくなって嬉しい男性もいるだろう。しかし同時に、事実大黒柱である人や、大黒柱バイアスから脱せない人が、今ある「男性ならではの困難」はそのままに家事育児の柱にもなれと強いられたら、重圧に感じるだろうということは頭の片隅に置いておきたい。

バイアスを解いていくために大切なことは、相手を知ること、認めること

 冒頭で述べたとおり、リブセンスには比較的男性が育休を取得しやすい企業文化がある。しかし、みんなが持つ常識・バイアスは十人十色。取得者本人がどの程度バイアスを持っているか、どんな考え方の上司や同僚と働いているかによって、育休の取りやすさには同じ社内でもグラデーションがある状況だ。

 育児・介護休業法の改正法施行を待たずとも、会社として、今すぐ男性が育休を取りやすくするためにできること・やるべきことはあるし、実はとてもシンプルなことかもしれない。

 それは、社員一人ひとりと対話をすること。そして、相手の価値観や生き方を認めること。それから、自分の考え方が大黒柱バイアスなどの古い常識や偏見にとらわれていないか、一人ひとりが都度立ち止まって考えてみること。

 法律の改正はカンフル剤みたいなもの。それをきっかけに、自社の根本的な課題に目を向けたり、より柔軟な働き方ができる就業環境になるよう改善をはかったりしていくことが大切だろう。

 人も組織も、一朝一夕には変われない。
 だからこそシンプルで地道なコミュニケーションの積み重ねが大切であり、積み重ねた相互理解の先に、男性がもっと育休を取りやすくて、女性がもっと社会で働きやすい未来が実現するのだと期待したい。

執筆 小山舞子

「もしも私がその人だったら」と、相手のこころに寄り添う気持ちを大事にしたいと願いながら記事執筆に向き合う。プライベートでは障がい者福祉支援団体でのボランティア活動、動物保護団体の活動支援を行う。二〇一九年よりリブセンスの広報を担当。