2021.11.11

人を正しく評価することはできるか。採用担当者と候補者、それぞれの苦悩

 お祈りメールほど、何の祈りも伝わってこないメッセージがあるだろうか。

 「チームで慎重に検討しましたが、今回はご希望に添いかねる結果となりました。西部様の今後一層のご活躍をお祈りいたします」

 わたしも就活生の頃、嫌になるほどこの類のメールを受け取った。わたしの魅力がわからない企業なんて、こっちから願い下げだ。そう強がってみても、こんなメールを受け取るたび、吸い込む息は浅くなり、心はいつもキュッとした。

 今振り返ってみても、あの数カ月の就職活動は「社会から次々と拒絶された思い出」だ。縁がなかっただなんて屈託なく構えていられるはずもなく、企業から祈られるたび、少しでも華やかな未来を期待していた自分を恥じた。

 けれど、社会人十年目の今だから思う。企業の採用は、学生が思っているより案外テキトーなのかもしれないと。こんなことを言うと、真面目に候補者と向き合っている担当者の方々からお叱りを受けるかもしれない。しかし、人が人を評価するというのはとても難しく、ときに曖昧にならざるをえない。

 就活生の頃は、面接担当者のジャッジは絶対的なものと思い込んでいた。しかし、わずか数十分で一体どれだけの人となりがわかるというのだろう。提出された断片的な情報と、目の前に佇んでいる人物の言動をもとに、何らかの評価を下さないといけないのが面接担当者。そういう状況で、相対的に最善と思われる選択をしているのだ。それに、特にエントリーが集中する業界や企業の採用が、システマチックな対応にならざるをえない事情もわかる。

 でも、もっとうまくできないだろうか。本当に「ご縁」と呼べるような、候補者が自己不信に陥らないぬくもりある採用は、実現できないのだろうか。

候補者の見え方は、面接担当者の質問力がすべて

 リブセンスは最近、『batonn(バトン)』というサービスを開発した。面接をよりよくするための新卒・中途採用担当者向けオンラインツールで、つい先日ベータ版を発表した。機能を一言でいうと、面接の録画ができ、自動で高精度な文字起こしがなされるというもの。これの何が良いかといえば、面接の属人化、ブラックボックス化を防げることだ。それぞれの面接を動画とテキストにより可視化することで、担当者の連携強化と改善の基盤をつくることができ、面接力がアップするというわけだ。

 「面接で候補者の評価が良くなかったとき、果たしてそれは、候補者だけの問題なのでしょうか。質問をする側にもできることはあったかもしれません」

 こう話すのは、昨年度までリブセンスの新卒・中途採用を担当していた五十嵐理紗さん。この秋から『batonn』チームに加わった。

 「面接担当者の質問力はとても重要です。質問を間違えると、候補者の本当の魅力を引き出せないまま終わることになってしまいます。それで不通過になった場合、魅力を引き出せなかったこちらにも改善点はあるのに、候補者は自分が悪いという思考になりやすいと思うんです。企業と候補者で持っている力に差があることに企業はいっそう自覚的でないといけない」

 こんな経験はないだろうか。二次面接に進んだが、一次面接とほとんど同じ質問をされたこと。候補者からすれば、同じ回答をすればいいだけなので楽に感じるかもしれない。けれど、それが自分の強みを説明できる質問でなかったらどうだろう。「もっと別のことを聞いてほしい」ともどかしく思うだろう。

 自分というパーソナリティは、いくつもの経験や思想が複雑に絡み合って構成されているのに、同じ質問、あるいはズレた質問をされていては、多様な自分の一つの面しか見せられない。ましてや、同じ質問をされ同じ回答をしたのに、二次で不通過にされようものなら、採用基準を疑いたくなることは必至だ。

 これは、面接担当者の連携不足が一つの原因だろう。たとえば、一次面接で「志望理由」を聞いたのであれば、一次面接担当者はその回答を次の担当者に漏れなく共有し、二次面接ではプラスアルファの質問をすべきだ。ただでさえ時間は限られているのだから、三歩進んで二歩下がっている場合ではなく、二次面接では四歩目から始めないともったいない。

 なんだか当たり前なことを言っているような気がするが、実際にわたしも就活中、こういう面接を受けてきた。その度に「結局、目の前のこの人に好かれるかどうかなのか」と遠い目をしたものだ。

コミュニケーション能力とは何だろう

 わたしが抱いた違和感は、あながち間違っていないかもしれない。結局、好き嫌いという主観的な基準で選んでいるのだろうか、という疑問。就職活動でも転職活動でも感じたことだが、特に新卒採用にその傾向が見られそうだ。

 というのも、マイナビ企業新卒採用活動調査によると、企業が新卒採用の面接で注視することの上位には「明るさ・笑顔・人当たりの良さ(52・5%)」「入社したいという熱意(50・4%)」「職場の雰囲気に合うか(40・0%)」がランクインしている。人柄など〝空気感〟に関する項目が並び、非言語情報に偏重している印象を受ける。「自己紹介・自己PRの内容」「企業・業界理解の深さ」といった言語優勢の、言ってみれば努力可能な項目は、どちらも12%程度にとどまる。

 確かに「一緒に働きたい人」を選ぶのだから、空気感を大切にしたくなるのはわかる。けれど、非言語コミュニケーションが得意である人が必ずしも活躍する人材になるかといえば、そうとも限らない。「がんばります!」と元気に言える愛嬌は好印象かもしれないが、「がんばる」を解像度高く言葉で説明できることのほうが、ビジネスには役立つのではと思ってしまう。

 実際に、コロナ禍でリモートワークが浸透し、仕事に求められるコミュニケーション形式に変化が見られると法政大学の梅崎修教授は述べている。コミュニケーションが「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」に分類されることはよく知られている。今の時代に合わせて分類し直すと、言葉を使った「言語的コミュニケーション」、笑顔やジェスチャーといった「非音声的コミュニケーション」、それから真ん中にもう一つ「近言語的コミュニケーション」があるという。

 近言語的コミュニケーションとは、非言語的要素ではあるが、声の大きさやトーン、相槌と言った、発話に伴う領域のこと。言わば、ユーチューバーのように画面越しでもテンション高くプレゼンテーションできる能力だったり、画面越しでも相手の不調に気づくことができる能力だったりをいう。対面が中心だった頃とリモート中心の今とでは、この言語・近言語・非音声の黄金比が変わってきたらしい。ひとえに「コミュニケーション能力」といっても、自社の業務にはどのコミュニケーション形式に関わるスキルがより重要なのか、改めて考えてみるのもよいだろう。

不通過でも、その出会いをご縁に

 前出の五十嵐さんには、いかに候補者が心を痛めながら活動しているか実感した出来事があった。採用には、もちろん不通過者が出てくる。それでも、不通過者をよりよいご縁に向けて背中を押すため、リブセンスは二年ほど前から、新卒も中途も面接を行った全ての候補者にフィードバックをするようにした。あなたのここが良かった、ここが強みだと思う、しかしリブセンスとはここが合わない可能性があると判断した、ここを磨くとさらに魅力が増す、といったように。

 すると、フィードバックを送った不通過者の約半数から、感謝の返信が届いた。テンプレ通りのお祈りメールを送っていたら、そうはいかなかっただろう。五十嵐さんは言う。

 「いくらフィードバックを添えたとはいえ、結果は不通過なので、悲しい気持ちにはなると思うんです。それなのに、皆さんから感謝の返信が届く。教えてくれて、本当にありがとうございますと。いかに普段、一方的に不通過にされているか想像に難くありませんでした。実際に面接するのは人事以外であることも多いですが、batonnで候補者を客観的に捉えられるようになれば、こうしたフィードバックも伝えやすくなります」

 『batonn』は「面接を、個人戦からチーム戦へ」と謳っている。面接は結局のところ、同席しないとわからない。そんな過去の常識から、面接担当者は自分の判断や他の担当者の判断を、ある意味信じるしかなかった。面接担当者と現場のメンバーの目線が合っておらず、入社後のミスマッチを引き起こすこともあっただろう。

 『batonn』には、面接録画と文字起こし、それから聞くべきポイントが網羅されているか聞き漏れを防ぐ質問ガイド機能などがある。面接を可視化することで、主観ではなく客観的な事実に基づく評価ができるようになる。そうすることで、これまで個人が負担していた懊悩や責任をチームで分かち合うことができ、前述のフィードバックのような「やったほうがいいが時間がなくてできなかった」業務にも時間を割けるようになるだろう。

 ベータ版ローンチに至るまでに、社内外からの協力を経てテストを重ねてきた。使用者からは、次のようなコメントがあった。

メモを取りきれなかったり、自分の解釈が入ってしまうことがあるので、客観的な記録が残っているのは判断しやすく役立った。

一次面接で聞いていることを聞かなくなった。すると、同じ六〇分×二回の面接でも、多面的に候補者を見ることができるようになった。

これまでは面接の事前準備にさほど時間を費やしてこなかったが『batonn』を使うと準備に時間がかかる。しかし、これがあるべき姿なのだろうとも思った。

『batonn』を使って、面接を上手くなろうと思えた。

 『batonn』は企業の面接力を向上させ、より誠実に候補者と向き合えるようになるサービスだと自負しているが、広めるにあたり課題もある。それは、面接は〝なんとなく〟でもできてしまうこと。

 「面接は難しいわりに、それ自体が問題提起されることは多くありません。人が人を評価するとき、評価する側には大きな力が宿っているんです。

 面接を変えるって本当に大変なこと。だから私自身も、以前は現状の構造を取り入れる方が気が楽でした。けれど、面接を気楽に実施することによるしわ寄せは、弱い立場である候補者の側にしっかりと現れている。そこを私たちは真剣に受け止めなければいけないと思います(五十嵐さん)」

 想像してみてほしい。候補者は、人生の決して少なくない時間を仕事に費やす。採用は、それだけの人生を預かるということだ。

 面接担当者だって、できるかぎり真摯に候補者に向き合いたいと思っていても、面接スキルの磨き方がわからなかったり、判断に自信が持てなかったりと、苦悩しているだろう。そんなとき、きっと『batonn』は力になれる。面接を個人戦からチーム戦へと変えることで、思いのこもった出会いは、また一つ増えるはずだ。

『batonn』の詳細はこちら

執筆 ニシブマリエ

白黒つけようとせず、複雑なものを複雑なままに。そんなスタンスを大切に、ジェンダーや社会的マイノリティを中心に取材・執筆している。リブセンスでは広報を経て、Q by Livesense 編集長に。最近、親になりました。

編集後記