2021.04.05

反社とは誰を指すのか。静かなる暴力「反社チェック」を問い直す

 「反社会的勢力」という言葉がある。いつのまにか広く知れ渡ったこの言葉は、少し前に芸人の闇営業に関連してワイドショーを騒がせもした。反社が社会的によろしくない存在であることはみながなんとなくわかっており、つながりを持ってはいけないことも知られている。しかし、反社の正体についてはどうだろうか。暴力団、特殊詐欺、組織犯罪。そういったイメージの断片はある。でも、反社の定義について、あなたは答えられるだろうか。

 本記事では「反社チェック」を取り上げる。反社チェックとは、企業が取引先に対して反社会的勢力でないかを確認するプロセスのことを指す。多くの人は反社チェックに深い興味を持っていないだろうし、そもそも何を行っているか知らない人も多いと思う。ずいぶん退屈なネタだと感じるかもしれない。
 しかし、わたしにとってはようやく書けるテーマとなった。このブログも十五記事を重ねて、思慮深い読者にも恵まれ、こうしたことについて書く準備ができたのだ。センセーショナルでなく、あまり興味をもたれず、大してバズりもせず、ゆえに正常に温存され続ける構造的暴力の恐ろしさについて。

 先にネタバレしてしまえばこの記事で述べるのは、反社チェックという錦の御旗の陰で、犯罪歴のある人たちの社会復帰が妨げられているのではないかという指摘だ。この社会を健全に生きる人にとっては、ほとんど影響のないものだ。自分にとっても関係のないことで、もしそういうことが多少あったとしても、それは罪人の自己責任なんだと思うかもしれない。

 たしかに直接は関わりがないかもしれない。それでも同じ社会に生きる人の話だ。
 この国では毎年数万人が新たに罪を犯し、有前科者となる。積み上げを考えれば、総数は少なくない。もしあなたが有前科者に一度も会ったことがないのであれば、偏りのある生き方をしてきたか、ただ見えていなかっただけだろう。有前科者というのは極めて言い出しづらいマイノリティ属性の一つである。

 これまで関わりがなかった人も、本記事を読んでつながりを感じてもらえればさいわいである。もしあなたが勤めている会社に反社チェックがあるならば、決して無関係ではないはずなのだから。

反社会的として排除されているのは誰なのか

 そもそも「反社」とはなんだろうか。なんとなく反社会的勢力というそれらしいレッテルを貼って、社会が排除しようとしているその対象は、とはいえ、実際にどこかに物理的に排斥されるのではなく、わたしたちと同じように生活を営んでいる人間だ。正体がよく見えないまま、なんとなく犯罪者、非合法、特殊詐欺。そういうイメージを持っているに過ぎない。

 自分たちが排除している相手の姿を知らないというのは、よく考えてみれば薄気味悪いことだ。
 あまり過激な例を持ち出したくはないけれど、歴史上の深刻な迫害も似たような無関心によって支えられたのだろうと想像する。だからわたしは、「反社会的」という有無を言わさぬ強いレッテルの前で、一度立ち止まって考えたかった。反社ってなんなのか。なぜ排除するのか。そうした排除は、本当にこの社会を善くしているのか。調べてみてわかったけれど、実際いま反社の定義は大きくゆらいでいるし、そのゆらぎによって反社チェックも危うい拡大を余儀なくされている。

 差別に代表されるような構造的暴力というのは、いつもマジョリティが見ようとしない場所で静かに繁殖してきた。犯罪やテロといった目に見える暴力は、社会の正常状態を打ち破って現れる。しかしその地下では、正常に稼働する社会の仕組みそれ自体が、一定の人たちをシステマチックに排除し続けているのだ。反社チェックのすべてがそうだというつもりはないけれど、個々の会社に運用が任せられている以上、どれだけの暴走があってもおかしくはない。反社チェックが本来の機能を逸して構造的暴力と化さないよう、本記事で光を当ててゆきたい。

顔の見えない反社

 まずは「反社」の本来の姿から明らかにしていこう。反社会的勢力とは、もともと暴力団を指していた。反社チェックも暴力団への資金の流れを断ち、また暴力団から民間企業を守るために考えられたものである。リブセンスの典型的な契約書によれば、反社は以下のように定義されている。

暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団関係企業、総会屋、政治活動・宗教活動・社会運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等の反社会的勢力(以下「反社会的勢力」という)

 このような定義は警察庁の二〇〇四年の通達が元になっており、多くの企業が似たような文言を採用している。暴力団以外も列挙されているのは、暴力団をバックにして犯罪を行う集団や、つながりのある企業までも反社会的勢力に含めることで、資金源を包括的に断ち切るためである。

 問題をややこしくしているのは最近急増している準暴力団、いわゆる「半グレ」の存在である。半グレとは暴力団に属さないまま振り込め詐欺のような組織犯罪を繰り返すグループを指す。若者を中心とし、暴力団のような厳格なヒエラルキーを構成しないのが特徴である。暴力団対策法の影響を受けず厳しいしきたりもないために拡大を続け、いまや全国で六〇グループが存在し、構成メンバーは四〇〇〇人にのぼるといわれている。

 半グレは反社なのか。警察庁はそう考えた。二〇一三年に新たな通達を出し、半グレに「暴力団に準ずる集団」というお墨付きを与えた。それ以降、反社というときには半グレも含めるのが標準になっている。暴力団対策法を一つの背景にして半グレ集団が出てきたことを考えれば、自然の成り行きだったかもしれない。

 しかし結果としてこの拡大は、反社の境界線を著しくぼかすことになってしまった。もはや反社は暴力団関係者に限定されなくなり、統一的に定義することは困難なまま、ただ犯罪者の一部を指す言葉に変化した。
 二〇一九年、「桜を見る会」に反社会的勢力が紛れ込んでいたとされる疑惑に関して、反社の定義づけを求められた政府は「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難だ」と答弁した。このことは反社チェックの原理的な不可能性を示している。

 そもそもある人が暴力団員かどうかだって調べるのは難しい。それに加えて半グレは正式な成員をもたないゆるやかなグループなのだから、その実態把握は不可能に近い。逮捕者が出れば少しははっきりするけれど、そこには別の問題もある。
 振り込め詐欺などの犯罪で現金を引き出す役割を受け子というが、受け子は逮捕されやすいがゆえにバイトを募って参加させる。バイト感覚で参加してしまう若者に罪がないわけではないけれど、気の迷いで一度だけ手を染めてしまった彼ら彼女らこそ、反社として氏名が公表されやすい立場にあるということだ。芋づる式に全容がつかめればいいけれど、そううまくいくとは限らない。
 こんな実態を前にして、どのように反社チェックを行うというのだろう。

反社チェックの内容と三つのリスク

 「反社チェック」というワードで検索すると、代行業者がリスティング広告に並んでいる。一番上にヒットした「RoboRoboコンプライアンスチェック」によれば、このようなことを行っているそうだ。

一般的には公知情報の検索を行います。検索したい「会社名」「代表者名」と、ネガティブワード「逮捕、違法、暴力団」を掛け合わせてインターネット検索を実施し、検索結果のページをエビデンスとして画面キャプチャーなどに残す必要があります。

大手証券会社では、「新聞雑誌の検索」と「インターネット検索」との2ソースから検索を実施することを推奨しています。

https://roborobo.co.jp/lp/risk-check/

 掛け合わせるワードや検索ソースに多少の違いはあれど、多くの企業が行っている反社チェックは似たようなものだろう。リブセンスも似たようなプロセスを辿っており、結果がグレーであればさらに調査を重ねることになる。

 こうしたプロセスで反社を判別しようとするとき、三つの難問が浮かび上がる。

 一つ目は、見つけ出すべき反社を見つけられないリスクである。本来見つけ出したいのは、現在進行形で暴力団や準暴力団に属している人々である。しかしインターネットや新聞雑誌の検索では限界がある。この問題はある程度はやむを得まい。そもそもいまだ摘発されていない犯罪者や予備軍を一企業が見つけ出すことは不可能である。

 二つ目は、反社に含まない犯罪歴の扱いである。「逮捕」や「違法」といったキーワードで検索すれば、その人の逮捕歴や前科が出てくることはあり得る。暴力団関係者でないと見受けられたとしても、反社が定義を失ったいま、こうした人たちを「反社会的」だと見なすことは十分にありえる。どのような犯罪歴であれば契約を結び、また拒否するべきなのか。現状ではその判断が一企業の裁量に委ねられてしまっている。

 三つ目は、既に足を洗った人を引っ掛けてしまうリスクである。過去の記事を検索すれば犯罪歴はわかるかもしれないが、その人が更生したかどうかは判断がつかない。再度犯罪に手を染める人もいれば、罪を償い真っ当に仕事に打ち込む人もいるだろう。
 こころを入れ替え社会復帰を目指す人との関係まで断ち切ってしまうなら、その人たちは社会的・経済的に孤立し、また犯罪組織へと戻らざるを得ない。それは結果として犯罪組織の維持に与するだろうし、そもそも罰金や刑期を終えて社会へ復帰する人に対して一企業が契約を拒否するのは行き過ぎた私刑である。

 反社チェックを公正に行うのは極めて難しい。こうした点をどう考えていくべきか。今回はリブセンス社内の反社チェック担当者にヒアリングを行った。ちなみにリブセンスでは反社会的勢力以外もチェックしていることから、このプロセスを「取引先確認」と称している。

リブセンスにおける取引先確認の実情

 ヒアリングの冒頭では、引っかかる企業が実際にあるかどうかについて聞いてみた。ヒアリング前は実際に引っかけるのは難しいのではないかと予想していたが、年に数件はあるとの回答だった。詳細を聞くと複数のパターンにわかれることがわかった。

 一番わかりやすいのは代表が特殊詐欺に関わっていた場合。まさしく反社に該当するケースで、二十年以内であれば一発アウトになっている。

 次に代表が特殊詐欺以外の刑事罰を受けているパターン。軽微な罪であれば問題にしないが、何度も犯罪を繰り返している場合や、再犯の可能性が高いと判断した場合ではNGとなり得るとのことだった。倒産リスク評価などと同様に、取引先のリスク評価の一環と考えられるが、本来の反社チェックの意図とは外れる危ういケースである。

 代表者名だけでなく、会社名で検討にのぼる場合もある。三番目は会社が違法だとして是正勧告や指導を受けているパターン。リブセンスは求人広告を販売しているため、特に労働法違反を重く見ているとのことだった。こちらも反社チェックの主旨とは異なるが、販売する製品の特性上、確認が妥当と思われるケースである。

 先に懸念していたリスクについても聞いてみた。社会復帰の観点はこれまでも反社チェックの適正さを考える議論の中で度々登場したことがあり、追加の調査を加えながら反省・改善・自助努力などを総合して勘案しているとのことだった。こうした点についてはなかなか客観的に判断するのが難しく、都度都度の判断としているのが実情のようだ。結果の白黒が民間企業それぞれの判断になってしまうことには不安も残るが、反社チェックが公的な仕組みでない以上やむを得ないだろう。

誤った芽を摘まないために

 考えれば考えるほど、反社チェックというのは不可思議な仕組みである。わたしたちが検索して発見できるのはつねに過去の犯罪でしかないのだから、その人が仮に契約できる立場にいるならば、判決が出ていない(推定無罪の段階にいる)か、不起訴・無罪になっているか、罰金・刑期を終えているか、執行猶予中か、大方そのあたりだろう。どの場合であっても、契約を拒否し、社会的・経済的に孤立させる道理は見当たらないし、むしろ積極的な社会復帰のサポートが必要な人たちともいえる。

 むろん反社会的勢力との付き合いは断乎として断つべきだ。そこに議論の余地はない。しかしその理想論が今の反社チェックでどれだけ実現できているかには疑問が残るし、代行業者が一件三〇〇円で請け負う反社チェックがどれだけの有効性を持つのかは推して知るべしである。不可能な理想に向かって突き進むことで、正しい道を歩む人々が犠牲になってはならない。

 今日、反社をめぐる社会的状況は混迷を極めている。
 一方ではますます反社と関係を持った人たちへの制裁が厳しくなり、他方では反社の定義があやふやに拡大している。このまま状況が加速すれば、企業はグレーゾーンの取引をすべて拒否・停止せざるを得ないだろう。しかし、独自基準・独自解釈でいたずらに有前科者の社会復帰が妨げられることがあれば、それは再犯率を高めわたしたちの社会を脅かすだけでなく、私刑を禁止する法治国家の根本をも揺るがしてゆく。わたしたちは誰もがやり直せる社会を目指し、意図せぬ社会的・経済的孤立を生んでしまわないように最大限の注意を払う必要がある。

 刑事司法には「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ」という格言がある。反社チェックを担当する方々にこの言葉を届けたい。

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編集後記