2021.01.04

今企業は何を書くべきか?オウンドメディアの現在地点

 昨年一二月一五日にリリースした本ブログ Q by Livesense はさいわいにも多くの人にご愛読いただいた。新春初となる本記事では、このブログの企画プロセス――なぜ縦書き長文なのか、なぜQ(Question)を前面に出したのか、なぜリブセンスがこんなメディアをつくったのか。その経緯について書いていきたい。

制作物は機能しなければ意味がない

 リブセンスは今年で設立から十五年になる。ぼくは二〇二〇年の春からコーポレート・アイデンティティ(以下、CI)を再考するプロジェクトを立ち上げ、社内の数十人にインタビューをしながら、現在の会社の姿を捉えなおそうとしていた。インタビューを重ねて見えてきた今の会社の実相はそれなりに新鮮で、新しいビジュアルのポスターもチームでつくりあげ、それはそれで大きな収穫にはなった。しかし、そこから「CIブック」のような制作物に落とし込んで終わりにする気にはなれなかった。そういう静的で内向きな形態では、今の会社に大きな変化をもたらさないだろうと感じていた。目指したのはもっとプラグマティックな実践だった。

 仮に格好いいコピーができあがって、面白い文章になって、美しい本が配られたとしても、その先が描けなければ何の意味もない。新しいCIがグッズになったり、壁紙になったり、ノベルティになったりしても、それが変化をもたらさなければ何の価値もないことだ。重要なのはそうした制作物が出来上がることではなく、それらが機能し、現実を変革することにある。テキストにせよデザインにせよ、すべての制作物は効果を生み出してはじめて価値を持つ。

 結局ぼくは当時そこまで思い描くことができずに、一旦そのプロジェクトはそのままになった。そのうち夏が過ぎて、まったくべつの事情からぼくは広報を所轄することになる。そうして二つの仕事は結び目をつくり、ぼくは広報ブログにCIプロジェクトの成果を活かそうと思いはじめる。動的で外向きな実践として、実際に機能するCI装置として、広報ブログを動かそうと考えたのだ。

オウンドメディアの二つの宿命

 広報はそれまで LIVESENSE info というメディアを持っていたが、なかなか芳しい成果をあげることができずにいて、そのテコ入れから行なうことにした。

 しかし、ここで大きな壁を感じることになる。その頃ぼくの中には二〇二〇年七月三〇日の『CUFtURE』に掲載された若林恵氏のインタビューが深く残っていた。少し引用する。

若林:よく企業から、「オウンドメディアをやってください」という話が来るんですけど、基本断っちゃうんです。というのも、メディアの捉え方が間違っていると思うからで、企業はメディアを基本「発信装置」だと思っているんですよね。

なので、メディアを作れば自分たちの声がもっと届くだろう、と、まあこういう想定をしがちなんですが、その発想がどれだけ下品かというと、みんなでカラオケ行って自分の番になったときだけ、自分のボリュームをあげる、というのと似た発想だからで、そんなヤツ鬱陶しいだけじゃないですか。「自分たちの声が届かないのは、自分たちの声が小さいからだ」って思って、どんどん声をでかくしていかねばって、高額の拡声器を買い続けるヤツと友だちになんかなりたくないですよね?(笑)

メディアの価値って、「声の大きさ」ではなくて、「耳の良さ」に宿るんですよね。『週刊文春』をみんながこぞって読むのは、声がでかいからではなく、そこが、ほかが聞き逃したり、見逃したりしている情報を掴むことができているからですよね。つまりは、アンテナの精度の高さであって、受信装置としてのクオリティなんですよ。

https://cufture.cinra.net/article/202007-wakabayashikei_myhrt?page=2

 メディアという語は、「中間」とか「媒介」という意味である。だったら、オウンド・メディアという語はそもそも矛盾している。若林恵氏の指摘は重石のように残っていて、これに答えるものでない限りは新しいメディアはつくれないと思っていた。

 この業界でメディアを見てきた人ならわかってくれると思うけれど、オウンドメディアは二つの宿命を持っている。一つは本来の意味でのメディアとして対外的には大成功を収めつつも、その会社にとっての価値を見いだせずに、なくなく予算が取れず撤退していくパターン。もう一つは、オウンドメディアと言って取材記事などを入れつつも、自社の宣伝記事を細かく挟んでお手盛り感あふれるポジショントークに明け暮れる、まさに若林恵氏が指摘したようなパターン。当然これはどちらも受け入れがたい。

 ぼくらは第三の道を選ぶ必要があった。それは今だからこそ簡単に書けば、「メディア」という言葉を棄て「ブログ」に還るということだ。しかしそこに辿り着くためには二つのモデルを参照することになる。

二つのモデル―パタゴニアとグッチ

 参照した二つのモデルとは、パタゴニアの「クリーネストライン」とグッチの「Gucci Equilibrium」である。両者は、実際にページを開いてもらえればわかるように、正直なんだかとっつきにくいブログである。こんなことを外野が勝手に言うのは失礼だけれど、あまりバズることのないブログだと思うし、そもそもそんなことは目指してもいなそうである。記事は長いし、内容は堅く、スマホで手軽に読めるような代物ではない。モダンな編集者がチープなセオリーに則ってバズるメディアを考えれば、こういうものはできっこない。

 しかし、伝わるのだ。開いた瞬間に伝わるものがある。企業の姿勢、大切にしているもの、目指す地点。パタゴニアやグッチの唯一無二のらしさが、随所から伝わってくる。記事の内容だけではない。ロゴ、レイアウト、フォント、タイトル、文量、写真。そういうものの全てが訴えてくる。それぞれがどういう企業なのか一目でわかる。これこそ今の時代に企業が持つべきブログだとぼくは確信した。同時に、ときにコンテンツよりもスタイルのほうが雄弁なのだということも痛感した。コミュニケーションされるものは記事だけではない。

 大きな決断が必要だったけれど、チームで話し合って、結果的に新しいスタイルを選ぶことになった。CIプロジェクトで得たものも混ぜ合わされて、縦書き・明朝体・写真なし・一記事四〇〇〇字という様式ができあがった。このスタイルを選んでしまっては、最近よく目にするような写真アイコンの対話調の記事なんて絶対に書けないけれど、とにかくぼくらはそういう決断をした。不安がなかったわけではないけれど、ぼくらは師となる偉大な二社から勇気をもらっていた。多く読まれなくてもいい。伝わる人には伝わるものだ。そういうふうに思えた。

 Q by Livesense という名称についてもほぼ同時期に決まった。社名は入れる前提でネーミングを考えたとき、「Livesense ◯◯」という形ではなく「◯◯ by Livesense」がいいと思った。オウンドメディアの宿命を脱するためには、「リブセンスを」紹介するのではなく「リブセンスによって」紹介しなければダメなのだ。こうしてCIプロジェクトの成果や、オウンドメディアの宿命や、二つのモデルからの学びを経て、このブログはできあがった。もともとの予定から大きくずれ込んだ、一二月一五日のことだった。

企業は何を書くべきか

 オープンにあたって、「What’s Q by Livesense」という小さなテキストを書いた。

 会社は何を書くべきだろうか。企業のブログは、身も蓋もないことをいえば、宣伝のために行なわれる。わたしたちはこんなに素晴らしい。こんな面白いことをやっている。そういう発信がオウンド・メディアの名のもとに氾濫している。スマートな書きぶりと格好いい正解は確かに眩しい。でも、なんだか無理に答えを出したがっているようにも見えてしまう。

 ほんとうは、もっと悩んでいるはずだ。悶えているはずだ。企業が事業成長だけを考えていればいい時代は終わり、今日ではその姿勢をこそ問われている。自由、格差、倫理、差別、生産性、疎外、幸福……。何が正しいんだっけ。正しさってなんだっけ。格好いい答えに憧れたりもするけれど、その一歩手前で考え続けていたい。

 ここはそんな時代の企業のブログ。言いよどんだり、迷っていたり、結論がなかったり。ちょっと企業ブログとしてはダサいかもしれない。もっとビシッと答えを言えたほうがいいかもしれない。でもこんな時代だから、迷いや戸惑いをそのまま描くことで、一緒に悩んでいけたらとおもう。答えがないと開き直るつもりはないけれど、でも、そこに辿り着くまでの過程にだってきっと価値があるよ。

https://q.livesense.co.jp/

 記事を出していく上で編集部で気をつけていることは「等身大で書く」ということである。 Q by Livesense は社会的なテーマを扱うこともあるため、そのときどきで本を読み学びを重ねて執筆することも多い。難しい話題を扱うときには、書き手も堅苦しいことを書きがちである。でも、会社の実情から離れて教科書的な一般論を書くことは、ぼくらの仕事ではない。

 どんな社会課題を取り上げたにせよ、社内にも色んな意見がある。理想論をいえばやるべきでないことだってある。それを無理に一つの正解にまとめあげることはしたくない。だったら、酸いも甘いも――それだけでなく、戸惑いや懊悩もそのまま書くしかない。ぼくらができることは、正解を提示することでなく、せいぜい問い=Qを提示することくらいなのだ。 Q by Livesense という名前には、そういう意気と諦めが交じっている。