2023.01.27

やる気が出るとき、報われないとき。社員の声から考えるやりがいのある仕事

 働き方の多様化が進みはじめた昨今だが、会社勤めの場合、週5日・1日8時間労働がまだまだスタンダード。しかし、スタンダードとは言うものの、そのペースで数十年間働き続けることは並大抵のことではないと身をもって感じている。

 ところでみなさんは、普段何をモチベーションに、また何をやりがいや手応えと感じながら仕事に取り組んでいるだろうか。

 できることが増えること。達成感を味わうこと。給与が上がること。昇進すること。表彰されること。やりたい仕事ができること。自己成長を実感できること。誰かに喜ばれること。褒められること。感謝されること。新しい出会いや経験ができること。特にそういうものは無い。人それぞれだろう。

 しかし考えてみると、自分にとって「これかな」と思う仕事のモチベーションややりがいはあったとしても、それを自主的に明確に言語化して周囲の人に伝える習慣はほとんどない気がする。

 言語化する場があるとすれば、例えば、上司との目標設定面談や新しいメンバーとチームビルディングのための自己紹介をするとき、就職説明会や採用面接において自分のエピソードを交えつつ自社で働く心構えを求職者に示すとき、などだろうか。

 同様に、周りの人からも、その人が日々どんなことにやりがいや手応えを感じながら仕事をしているのかについて話を聞く機会もほとんどない。機会の少なさは、もしかしたら「仕事=四の五の言わずに頑張るのがあたりまえ」という社会通念が我々の中に強く存在し、いちいち相手のやりがいやモチベーションを気にしなくても仕事が回ってしまうからなのかもしれない。

 多くの人が一度は耳にしたことがあるであろう「わたし褒められて伸びるタイプなんです」という冗談めいた台詞。これは言ってみれば「わたしは褒められることが仕事のモチベーションになるタイプなので褒められたいです」という表明だ。

 大人が仕事で褒められたいだなんて何を甘いことを言っているんだ、という声も聞こえてきそうだが、年齢など関係ない。自分にとって何かしらの利益や喜びがあるから、仕事でもなんでも努力し、継続することができる。

 「褒められて伸びるタイプ」という台詞くらい素直に、自分の得たいことが何かを表明できたら仕事がしやすくなるかもしれない。

 今回は社員一人ひとりに焦点を当て、何をモチベーションに、何にやりがいや手応えを感じて仕事をしているのか話を聞いてみた。

やりがいの自覚と自己開示の効能

「自分がやりたい仕事に取り組めているかどうかが一番大事で、自分がコントロールできない他者評価としての給与額や表彰などには重きを置いていないですね」

 そう話すのは中途入社4年目のAさん。

 2年前、Aさんは上司との人事評価面談において、入社時から伝えていたやりたい業務への思いと、実際にその業務に携わるためにはどうすればよいのかについて相談をした。その話し合いの結果、兼務というかたちで希望の仕事に携わることが叶い、今は満足感をもって働けているという。一方でAさんは、やりたい仕事ができないままだったら会社を辞めることも考えていた、とも語った。

「私は自分の意見を周囲にはっきりと言えるタイプです。また、周りの人に自分を理解してもらうために、最初の段階から、私はどんな人間でどんな得手・不得手があるのかを自己開示します。けれど周りの人からそういう話をされることは少なく、リブセンスには自己開示をすることが苦手な人が多いように感じます。

 もっとお互いに、自分の思考パターンや性格、得意な業務や苦手な業務を理解し合えたら、仕事が一層やりやすくなり、それが会社のためにもなるし、心身にかかるストレスも減るのではと思います。株式会社パプアニューギニア海産の取組み『嫌いな作業はやってはいけない』などはまさに理想ですね」

 話を聞きながら、私はAさんと違って自分の得手・不得手ややりたいことを自己開示しない方だと感じた。「私がその仕事をやりたいかやりたくないか、得意か不得意かということは置いといて、会社として誰かがやらなければいけない仕事、かつ他にやる人がいないようであればやります」のようなスタンスで長いこと仕事をしていた。
 しかし自分の意思を後回しにしすぎると、仕事を苦痛に感じて楽しくないし、心身にも悪影響が出ることを身をもって知った。Aさんのいう自己開示の大切さは、そのような悪循環に陥ることを回避して、健やかに働くためにも大切な行動だ。

 人事部のBさんも、大事なことは自分がどのような仕事をするかであると語る。

「たまたま縁あって人事の仕事をしています。やりがいも感じているので今後も追求していきたいですが、根本的には人事じゃなくても割となんでもいいかなと思っています。自分の裁量で試行錯誤できるとか、改善の余地があるとか、それが実際に業務フローや結果に反映されるとか。そういったことが自分にとって重要なのかなと考えています。

 また、どれだけ報酬ややりがいがあっても、心身を壊すような環境では働き続けられないし、創意工夫しようとする余白も生まれないので、心身の健康を損なわないことも大事ですね。あとは、人の役に立つことも。誰かに感謝されたり、貢献できたりするとやっぱり嬉しいので、それもモチベーションの一つです」

 その他Bさんからは、仕事に求める大前提の要素として「生計を立てられる報酬が得られる」という「衛生要因」も挙げられた。

 衛生要因という言葉は、職務満足に関する要因には「衛生要因(=不満足要因)」と「動機付け要因(=満足要因)」があると説くアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」からきている。

 「衛生要因」は会社方針や職場環境、給与、対人関係などを指し、「動機付け要因」は仕事内容、達成感、承認、責任、昇進、成長の可能性などを指す。満足な(動機付け要因が満たされている)状態と、不満足ではない(衛生要因が満たされている)状態とはまったく異質なものと考え、やる気を引き出すには衛生要因が満たされるだけでは足りず、動機付け要因が働く必要があるという理論だ。

 私自身、転職活動時に最重視していたのは「給与額」と「仕事内容」だったが、入社後のやる気の源は「やりたい仕事においてできることが増えている」「誰かの役に立っている手応えがある」だと感じるので、この理論には納得、共感する部分がある。

「わたし、こういう時に報われなさを感じます」

 反対に、仕事をしていてやる気の低下や手応えのなさ、報われないなと感じる経験についても聞いてみた。

 入社2年目のCさんは次のように語る。

「人生で最大級に一生懸命取り組んだ仕事に対して、あまりポジティブな反応や評価が返ってこなかったときに、ちょっと悲しくなりました」

 Cさんにとって、いま一番仕事のモチベーションであり大変なときに踏ん張る力となっているのが、社内のお世話になっている人や尊敬する人、仲の良い人たちの頑張る姿。その姿を見ると、この人たちにより良い働く環境を届けたいという思いが強くなるという。

「みなさんに喜んでもらいたい一心でエネルギーを注いだ仕事でした。でも、想像していたような周囲の反応は当時の自分にはあまり認識できず、人事評価のランクも下がらなかっただけ良かったものの前回と変わらずで、自分はなんのためにやっていたんだろう?と思いました。良い経験にはなりましたが、もし次も同じような状況になってしまうとしたらやりたくないなぁと思った経験でもあります」

 確かに、誰かのために貢献したいという純粋な思いが強いほど、自分で思い描いていた結果に結びつかなかったときのダメージは大きいかもしれない。

 在籍9年目のDさんは次のように話してくれた。

「質問されて考えてみたのですが、私の場合、余計な工数が発生したときに、それまでの工数と成果がゼロにリセットされた気持ちになって、過去のがんばった自分が報われないなと思う傾向にあると気づきました」

 例えば次のようなことだ。
 ①依頼したことが期日までに対応されず「リマインドの工数」が生じるとき、②関係者間の連携不足や引き継ぎ不足のしわ寄せで「初めて知りました」「担当者が変わったから分かりません」「それは引継ぎを受けていません」と言われ、前に担当者と打合せした事柄を別の人に一から説明しなければいけないとき。

 Dさんと同じような経験があり共感する人、自分の行動を反省する人、様々いるかもしれない。私はどちらかというと後者かもしれない……と色々な記憶を辿りながら変な汗が出た。

 Dさんは言う。

「余計な工数が発生してがっかりするのはなぜだろう?と改めて考えてみたら、その理由は『チャレンジしたい仕事にかける時間が無くなるから』でした。会社の中には長いこと後回しにされていることが大なり小なりあると思います。優先順位の問題ということもあれば、多くは『やるには工数がかかりすぎて手が回らない』だったりするんですよね。

 でも会社っていつも工数ギリギリの人数で回しているから、誰も何もしなければ、その課題の優先順位は上がってこないと思っていて。なので私は、自分のタスクをできるだけ効率化して時間をつくり、後回しにされていた問題解決に取り組みたいのです。そのような取り組みに対して現場の人から『こういうの助かるー!』と言ってもらえたときは報われたなって思います」

 私の場合、両手に抱えている目の前の仕事を完遂することで一杯いっぱいになりがちなので、Dさんの「会社をもっと良くしていこう」というチャレンジングな姿勢と、見ている仕事の範囲の広さに感心した。しかもDさんのポリシーは〝日々の業務は時間内に終わらせる〟。突発的な業務にも迅速に対応できるようにするためだと言う。時間を大事にするからこそ、余計な工数に対してシビアになれるのだ。

 中には入社3年目のEさんのように、社内表彰制度が思わぬモチベーション低下のきっかけになる人もいるかもしれない。

「あまり他人には言えなかった感情なのですが、社内表彰制度に対して、屈折した感情を抱いてしまいます。『競争には勝ちたい』と思う自分の性質もあると思いますが、ノミネートに至らなかったり表彰されなかったりしたとき、自分の頑張りを否定されたような気持ちになりました」

 リブセンスの社内表彰制度は半期に一度実施され、ノミネート者や受賞者は社員同士の推薦がベースになっている。給与や職級に影響する人事評価制度とは切り離された取り組みだが、全社員の前で個人やチームの取り組みが賞賛される特別な場である。

「さいわい、自分にとって大きなモチベーションである給与の面では昇給していましたし、やりたいことや成し遂げたいことをきちんと上司に理解してもらえており、チャレンジングな仕事を自ら取りに行けている実感もありました。そのため気持ちの切り替えはしやすかったのかなと思いますが、表彰式の直後はなんだかモヤモヤして落ち込みました」 

 人事評価制度上は納得のいく評価が得られていても、社内表彰制度で評価を得られないことが、人によっては思いのほかやる気やモチベーションに響くこともあると知った。表彰制度の目的は「成果を出した人や頑張った人を称えたい」というシンプルでポジティブなものなのだが、一方でそれが「称えられなかった人は成果を出していない人や頑張っていない人」という裏返しのネガティブなメッセージにもなりかねないのだと、制度設計の難しさも感じた。

 何がその人のモチベーションに影響を与えるのかは、実に人それぞれ。だからこそ「私はこういうことでやる気が出ます。反対にこういうことでやる気が削がれます」と自己開示し合うことが、自分にとってやりがいや手応えを感じる仕事を引き寄せる方法のひとつなのかもしれない。

 また、一緒に働く相手が何を求めているのか、その志向を知ることでミスコミュニケーションが減り、もっと最短距離で相手に合った行動がとれ、本当に必要なケアができるようになる可能性も感じる。もしかしたら、よかれと思って行っていたケアが不要だと分かり、気持ちが楽になる気遣い屋のマネージャーもいるかもしれない。

自己開示できない気持ちを受け止める、それも相互理解 

 一方でこんな意見もあった。

「自分自身、いま色々と迷子になっていて『どういうことが仕事のモチベーションになるのか、やりがいや手応えになるのか』答えにくい心境です」

 そう中途入社4年目のFさんは話してくれた。

「少し前まで、多様性を尊重し合うには、自己開示し合って相互理解をすることが良いと考えていました。しかし、『やりたいことや苦手なことが自分でもなんだかわからない……』という心境のいま、『誰しもが、常に自己理解ができていて、それを嘘偽りなく言語化して伝えられるわけじゃない』という認識に変わってきました。

 本当の意味で多様性を尊重するには『自己開示したくないことはしなくていい。話したくないことは話さなくていい』という気持ちを認めることも必要なのかなと考えを改めつつあります。無理に自己開示を求める行為は、相手を傷つけることや圧力にもなりかねないですからね」

 確かに、自分が何にモチベーションを感じて働いているのか上手く言葉にできないときもあるだろうし、すすんで他者に表明したくない場合もあるだろう。

 Fさんの話を聞いて、今回色んな人に協力してもらったヒアリングが、もしかしたら「仕事はモチベーション高く取り組むべきもの、手応えを感じるべきもの」という考え方を前提にした訊き方になっていたかもしれないとドキッとした。みなさん親切に答えてくださったけれど、無自覚な価値観の押し付けをしていたり、自己開示を強いてしまっていたりする可能性も無かったとは言い切れないのではないか。改めて無意識のバイアスには気を付けたいと感じた。

十人十色の価値観を組織のモチベーションにできたら

 色んな社員に話を訊いてみて、どんなやりがいや手応えが仕事に取り組むモチベーションになっているのかは実に様々だと感じた。その一方で「納得いく額の給与さえもらえていれば満足、特にやりがいとか求めていません」という人は今回ひとりもいなかった。

 それはきっと「幸せから生まれる幸せ」という当社の経営理念や、社会の問題や日常生活の中にある「?(疑問)」を事業で解決していくというビジョンのもとに集まったメンバーだからということもあるだろう。

 仕事のやりがいや手応えが、自分にとって具体的にどのようなことなのかが既に言語化できている人であれば、その考えを他の人にも開示することで、互いの強み・弱みが理解でき、個々人の持つ特性の凸凹を上手く活かしながら働ける可能性が高まると感じる。

 自己開示された側も、相手が自覚している得手・不得手はどんなことなのか、どんな点を評価するとモチベーションアップに繋げることができそうか、どんなサポートが必要そうか。闇雲にではなく、より的確に検討・実行しやすくなるだろう。

 一方で、自己開示はあくまでも本人の意思によって行われるもの。みんながみんなできる状況とは限らないし、すべきもの・強いるものでもない、ということは認識しておきたい。なお、本人に自己開示したい気持ちがあるのであれば、まずはざっくばらんに話を聞くなど、サポートして行くのが良さそうだ。

 同じ会社で働いていても、一人ひとり価値観は異なり、モチベーションのありかやどんなことにやりがいや手応えを感じるのかは人それぞれ。その前提を理解したうえで、自分も相手も満足度高く働けるようにするには何ができるのか。会社の一員として、一緒に働く仲間として、考えていきたい。

執筆 小山舞子

もしも私がその人だったら。相手の心に寄り添う気持ちを大事にしたいと願いながら記事執筆に向き合う。2019年より広報を担当。プライベートでは障がい者福祉支援団体でボランティア活動中。子供の頃から憧れの人はナウシカ。

編集後記