2020.12.15

「ブラック企業」と黒人差別を考える

 色には、イメージがある。

 白に清潔感をイメージし、赤に情熱や暑さを、青に冷たさや水をイメージする人は少なくないはずだ。白×赤の色の組み合わせに日本国旗をイメージすることもあるかもしれない。一方で、文化的背景の違いなどから、同じ白×赤でも異なるイメージを持つ人もいるだろう。

 今回取り上げる「ブラック企業」という単語もその一つだ。

 「ブラック企業」という単語は日本生まれの造語だが、具体的にどのような企業をイメージして作られたものなのだろうか。そのイメージは「ブラック」という単語でしか表現できないものなのか。また、年々日本国内で働く外国人が増加し、国際化が叫ばれて久しい日本において、黒人(ブラック)を想起させる単語を用いた造語を作ること、『差別の意図はない』からといって使い続けることに、どのような意義があるのか。海外から見たらどのように映るのか。

 本記事では、議論の発端となった新聞記事および社内アンケート結果をもとに「ブラック企業」という単語と黒人差別について考えてみたいと思う。

「ブラック企業」という単語の出現

 本題の前に、そもそも「ブラック企業」という日本独自の単語は、いつ頃・どのような経緯で誕生し、ここまで浸透するに至ったのだろうか。

 諸説あるようだが、出現は二〇〇〇年代のはじめ。過酷な就業環境で働くIT企業社員が、〝酷い会社〟を言い表すインターネットスラングとして使用したのがはじまりと言われている。二〇〇七年にインターネット掲示板のブラック企業ネタが話題となり、翌年には書籍化、さらには映画にもなった。また、就活生を中心に「就職したら大変なことになる企業」として恐れられ一般への認知が拡大。二〇一三年に流行語大賞に選出されるとインターネット上の検索数もピークに達し、現在では新聞やテレビで使用されるまでに一般化した。

 リブセンスの運営する口コミ付き転職サービス『転職会議』も「ブラック企業」という単語を利用している。『転職会議』のサービスリリース準備開始時期が、ちょうど「ブラック企業」という単語が取り沙汰され始めた二〇〇八年頃と重なっていたこともあり、現在もサイト内には『○○社のホワイト/ブラック企業診断』という評価項目が存在する。(次図参照)

 なお、サイト訪問者の検索クエリ(検索語句の組み合わせ)にも「企業名 + ブラック」が依然として多く、新規ユーザーの集客を検討する際にも「ブラック企業」という単語を無視できない状況にある。

「ブラック企業」は黒人差別につながるのか

 本記事は、朝日新聞の『「ブラック企業」に「黒人差別」の指摘 どう思いますか』(二〇二〇年七月二十九日付)に端を発したものだ。以下に、大まかな記事内容を紹介する。

新聞記事は、二〇二〇年五月以降全米に広がったブラック・ライブズ・マター(以下、BLM)の流れを受けて書かれたもの。公開されてすぐに読者からの賛否両論が溢れた。

賛否の内容は、例えば「ブラック企業のブラックに黒人の意味はない」「ブラックと黒人を紐づけるほうが差別的」「そんなこと言ったらブラックコーヒーや相撲の白星黒星もNGだ」「黒人差別とは思わないが、はっきりと違法企業や脱法企業と呼んだ方が良い」など。

記者が伝えたかったことは大きく二つ。

アメリカ駐在中に何度も人種差別問題の取材をし、人権をめぐる表現には敏感なつもりでいたのに、最近まで「ブラック企業」という単語に傷つく人がいると思い至らなかったこと。

「ブラック企業」という単語が、これまで劣悪な環境に置かれた働き手を救おうと闘ってきた人たちが使用してきたものだとしても、今現在他の誰かを踏みつけているのなら、一度立ち止まって見直したほうがいいのではないだろうかという問題提起。

 『転職会議』では、当初「ブラック企業」という単語が『黒人差別に当たるのでは』という問いかけに、それは言い過ぎなのでは?という反応もあった。理由は、「ブラック企業」の「ブラック」が意図するのは、違法やハラスメントが横行する企業の「腹黒さ・闇・クロ(有罪)という悪質性」であり、黒人を直接的に意味するものではないと考えていたためだ。

 しかし、考えていくうちに、言葉を使う「意図」ではなく、言葉が与える「イメージ・影響」に視点を切り替えてみたことで問題意識が芽生えた。「ブラック企業」の「ブラック」に黒人を指す意図がないとしても、「ブラック企業」=「悪」というイメージを発信し続けることが、「ブラック」に対するネガティブなイメージの再生産に加担することになりかねない。加えて、BLM運動など黒人差別へ抗議活動が加熱している今「労働条件や職場環境が劣悪な企業」を指す単語を模索するとしたら、「ブラック」という言葉選びには異論が上がるのではないだろうかと思い至った。

 そこで、一度『転職会議』として「ブラック企業」という単語について再考するとともに、社内メンバーがどう考えるのかを知るため、すぐさまアンケートを実施した。

アンケート結果から見えたこと

 アンケートは、朝日新聞の記事を読んだうえで設問に回答する構成。回答者は計二十九名。以下に、アンケートの一部を抜粋して紹介する。

 「ブラック企業は黒人差別に当たると思いますか?」という質問には、七九・三%が「黒人差別ではないが、黒/白に対するイメージを再生産する可能性は否定できない」と回答。

 また、「『ブラック企業』という単語についてどういう印象を持っていますか?」という設問には、下記のとおり様々な意見が集まった。(一部抜粋)

  • コンプライアンスを守らず、度を越した過重労働を強いる会社
  • 悪いイメージ、労働環境が劣っているイメージ
  • ネガティブな印象、分かりやすくてキャッチー
  • ポジティブなイメージではない一方で、違法に労働者を搾取する企業の存在が一般的に認知され、長時間労働の否定、働き方改革へのきっかけになった
  • 「白い」=「清廉潔白・誠実・正義」というイメージに反して「黒い」=「(意志・風土が)汚れている・不誠実・悪」というイメージを持っており、それを企業と紐づけて「悪い・働くのが不当に辛い」という印象
  • 「ブラック」の意味自体が多義語であり、「ブラック企業」の「ブラック」は、「闇・暗い」の意味でのブラックだという認識しているので、特に気にする必要はない、という印象
  • ブラック企業=闇(労働環境や人間関係がひどい)に包まれた企業という印象。このアンケートに回答するまで、黒人差別とは全く紐づいていなかった
  • 黒人差別とはそれほど関係はないと思うが、安易な二元論的な表現なので、個人的に好きではない

 意見を大まかに分類すると、「コンプライアンスを守らない」など具体的な企業の状態をあげる人が約六割、次いで「黒い=不誠実・悪」など色から受けるイメージに関する意見が約二割、残り二割がその他という結果だった。中には、企業ごとに複雑な事情が内包されているにも関わらず、白/黒=善/悪という概念で区別する「ブラック企業」という単語に対して「安易な二元論的な表現なので個人的に好きではない」という意見もあった。

 色の「ブラック」に対するネガティブなイメージは確かに存在するようだ。「ブラック企業」という単語に、様々な企業の問題が意味づけられていることもうかがえる。しかし、果たして「ブラック企業」という単語で、深刻な実態を言い表せているのだろうか。

 アンケートでは、「転職会議での『ブラック企業』というワードの使用についてどう思いますか?」という、組織としての姿勢を問う質問もあった。次図はその回答結果。

 結果は、四八・三%が「ユーザーは自由だが、プロダクトとしてはタイトルや見出しや特集名などに使用しない方が良い」を選択。それは、もっと良い社会を作るために、まずは私たち『転職会議』が「ブラック企業」という単語の使用をやめてみよう、という姿勢だ。ユーザーに強制するのではなく、『転職会議』の姿勢に共感・賛同してもらうことが、黒人差別問題への一つのアクションになるのではないかと考える。

 社内アンケートや朝日新聞記事への読者コメントを読んで感じることは、日本人としか仕事をしない日本人には、まだまだ黒人差別問題が他人事だということだ。それゆえに、「ブラック」という言葉を選んで造語を生み出し、その単語を使い続けることに鈍感でいられて、黒人差別への影響についても考慮しない。

 これがもし、反対の立場だったらと想像してみる。「日本」「天皇」「原爆」「津波」「相撲」「寿司」「着物」など、日本人が鈍感ではいられない単語を、海外のとある国において、国民のほとんどが知るネガティブイメージの造語に使われていたら、どう感じるだろう。きっと「どうしてわざわざその日本語を選んだのか。悪いイメージの造語に使わないで欲しい」と思うだろう。

 二〇一九年、アメリカのセレブリティであるキム・カーダシアンが、自身がプロデュースする補正下着ブランドを「KIMONO」と名付けて大バッシングを浴びたこともあった。ポジティブな文脈で使用された場合でもこのような反応が起こるのだ。

 『転職会議』としては、引き続き「ブラック企業」という単語の是非について考えていくつもりだ。

言葉は狩られない。言葉はつくり増やせるもの

 社内アンケート実施をきっかけに、関連情報として、朝日新聞記事を取り上げた『TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』の七月二十九日放送分』が社内で共有されていた。荻上さんの、「ブラック企業」という単語に関する考察だけでなく、言葉に対する柔軟な考え方がとてもいいなと感じたので、共感した発言を一部要約してご紹介する。

その言葉を何の気もなしに使うんだったら、他の言葉でもいいじゃないかと思うんですよ。その言葉じゃなきゃ伝わらないという合理的な理由がないのであれば、別の言葉に置き換えましょう。他にも言葉はありますし、つくることも出来ます。

ある言葉を使わないようにしようと言うと「言葉狩りじゃん」という人がいます。また、私には人に指摘されて、理由に納得し、自分の中で使わなくなった言葉が色々あります。「ブラック校則」など。でも、その度に言葉を失っているかというと、新たに獲得しているつもりでいたんですよ。より適切な言葉を考えることで言葉は増え、世界の画素数が上がっている感覚です。

言葉は時代によっても変わっていきますから、ちょっと前までは文脈的にそんな意味は無いよということだったとしても、時代や状況によって受け取られ方や意味も変わっていきますからね。

 荻上さんのように、ある言葉を「使わないで欲しい」と言われたときにその理由を知ろうとしたり、なぜ自分はその言葉を使うのか自問したり、その言葉を使う合理的理由がなければ他の適切な言葉に言い換えようと考えること。そのような柔軟性と語彙力を身につける、いや、せめて意識するだけでも、差別的な表現を世の中から減らし、今の時代にふさわしい、より適切な表現に変えていけるのではないかと、ラジオを聴いて考えた。

 差別のない平和な世の中を築いていくには、相手と自分の意見の違いを認めること。認めたうえで、互いに納得できる歩み寄り方を考え、行動に移すこと。そのシンプルなことを、私たち一人ひとりが、地道に積み重ね続けていくしかないのではないか。

 「ブラック企業」という単語。

 今、あなたなら、どのような言葉に進化させるだろうか。

執筆 小山舞子

「もしも私がその人だったら」と、相手のこころに寄り添う気持ちを大事にしたいと願いながら記事執筆に向き合う。プライベートでは障がい者福祉支援団体でのボランティア活動、動物保護団体の活動支援を行う。二〇一九年よりリブセンスの広報を担当。

編集後記